no.12 デザイナーインタビュー #206 北嵜剛司

デザイナーインタビュー #206 北嵜剛司(㈱スペースRデザインリノベーション事業部ディレクター)

今回の続・山王RのプロジェクトリーダーであるスペースRデザインの北嵜さんに山王マンションのあちこちに行き、これまでのリノベーションについてじっくり話を聞いてきました。

『リノベーションは「人と人」、「人と建物」、「人と時間」そして「人とまち」とをつなぐコミュニケーションツールだと思うし、楽しくおもしろく暮らすためにあるものだと思うんです』

Q:お仕事について教えてください。
A:仕事はですね、これまで主に築30年以上の賃貸マンションを中心に60室以上、もう70室ぐらいになったかもですが室内リノベとか、2棟の耐震改修や大規模改修をディレクションしました。自分で企画から設計、工事まで全部やったものもあれば、建築家さんとかアーティストさん、デザイナーさんと一緒につくらせていただいたお部屋もあります。

Q:具体的にどのような事を。
A:今の会社に入社したのが2007年で27歳の時です。で、デザイン系の大学を卒業して家具設計施工会社に3年勤めて、その後店舗設計施工会社に2年勤めて、で今の会社にお世話になることになりました。担当は工事管理、現場監督的な役割です。で、最初のお仕事が山王Rプロジェクトでした。

リノベーションという言葉は聞いたことあったんですが、賃貸マンションの事とかは全然わかってなくて。なんでリノベするのかもよくわかっていない状況で13室のプラン管理とか工程管理、コストとか発注とかの管理をやってました。工事的なことだけは前職までの経験で大体わかってましたが、賃貸ってなに?って感じで。訳分からん状態でしたね。で、その最中にたまたま一部屋空いて社長の吉原が「この部屋を募集できるようにして」ってなりました。けど原状回復するだけじゃもの足りなくて。じゃあ、同じぐらいの費用の中でリノベにしちゃろうかと。

で、初めて企画からデザイン、施工をやらせてもらったのが「オルタナティブルーム」です。わからんなりに賃貸のリノベーションって何だ、と考えて。考え付いたのがコンセプトをつくることでした。しっかりとしたコンセプトやテーマを持つことがリフォームとリノベーションの違いだし、差だと。で、作りながら考えながら思ったんですね。今までの職業は建設業界にいて、いまは不動産業界にいる、転職したんやなぁと。

で、そのあと新高砂マンションの大規模改修、建築家の信濃さんと組ませてもらって。外壁改修と給排水管の全面更新ですね。2008年。この時は建物を長く使い続けるために中長期の修繕計画とか収益計画とかを見直していく作業から始めて。かなり大変でした。この頃ガッツリ痩せましたね。会う人会う人「大丈夫ですか?やつれてます」みたいな感じで。今は完全に逆になっちゃってますがね。

で高砂女子R。山王Rの時に比べたら、自分のやるべき事、役割。賃貸のリノベをすることについて意味も理解出来ていたからすごくスムーズに仕事を進めることができていたように思いますね。投資的な。利回りとか回収期間だとか賃料設定だとか稼働率だとか。この頃あたりから自分の中で賃貸がスッと入ってくるようになったのは。

で、2009年。山王マンションで2室古いお部屋が空きました。で社長の吉原がまた「募集できるようにして」って。けど2室 同じような間取りで、状態も同じような感じで。なんか面白い企画考えようと。で生まれたのが「R100プロジェクト」。 そこにたどり着くまで結構いろいろ企画考えたりして。その頃山王Rとか高砂女子Rとか大型のプロジェクトが続いたから、テレビで言うところの深夜枠的な。ちょっと変わったことやっていこうってノリで。

Q:深夜番組的にですね!
A:で、R100プロジェクト。スタート時に考えてたコンセプトを少しずつ少しずつマイナーチェンジしていって。で今の形で落ち着いた感じです。「築100年を目指すリノベーションプロジェクト」に。で第1弾は100万円でリノベーションすることでもう一度リノベーションを考えようってテーマにしました。
スタートから約1年間、ほぼすべての過程をブログにつづるという、だらだらな感じで始めたんですが、今見返すと結構面白い内容やねーっと、僕だけかもしれま せんが思いますね。(笑)お金の話とかがリアルにストレートに書いてたりして。お時間ある方は是非はじめから最後までだら~と読んでほしいです。
http://r100p.space-r.net/part1/

このころからでしょうか、自分(のデザイン)をその部屋に押しこもうとはせずに、その建物、その部屋が持っているもの、魅力や歴史を引き出そうとする感じが芽生えてきたのは。100万円という金額制限を設けたことによって、その部屋と、そして賃貸リノベーションとしっかり向きあうことができましたし、視野が広がったような気がします。

で2011年の冷泉荘耐震改修工事。冷泉荘1階を耐震改修を含め街に開かれた建物を目指して大がかりにリノベーションしました。この時は平面図しか書かずに、後は現場で判断していく、即興的なスタイルでデザインと工事を進めていこうと考えました。もちろん、耐震診断とか耐震設計とかは構造設計の先生にお願いしたり、ブレースの図とかはしっかり書いてもらいましたが、構造的に問題ない意匠的な部分は平面図だけ。

工事は東急建設さんだったんですけど。東急建設さんとか職人さんに山王マンションとかに来てもらったり、冷泉荘のお部屋を見てもらって「雰囲気はこんな感じで!この辺のこういうがイイ感じなんです!」とか。図面で伝えるより雰囲気を伝えて、写真ではなくって実物をですね。イメージを共有することの方が図面よりはるかに伝わってて。年配の監督さんだったんですが「ファジーな感じですね」とまとめてくれました(笑)ファジー。

Q:ファジーって懐かしい言葉ですね。しかし、雰囲気と平面図だけだとやっぱりすれ違ったりしちゃうんじゃないですか?
A:そうですね。古いものの味わいとかその場所、建物の空気感とか雰囲気とか。その建物の積み重ねた過去を活かすためには、図面を中心に紙で指示するスタイルではなくって、その場で即興的に判断していく方がいいんじゃないかって思っていて。といいながらもやっぱり多少のすれ違いがあってイメージと違う部分もあったんです。
イメージ通り直してもらおうと思ったんですが、そのすれ違いの部分をあえて残すことにしました。その方がすごく生き生きと感じることができるんです。造り物(フェイク)ではなく本物(リアル)の証みたいな。本物って決して整ってないじゃないですか。そこに魅力があるんじゃないかと思うんです。ムラがあるからいいんじゃないでしょうか。
余談ですがこの前「フェイク(fake)」の意味調べてたら、「偽物」とか「模造品」という意味のほかに「ジャズで即興演奏すること」っていう意味もあるようです(笑)。考え深い。。。。

で、ここ2年位前から「リノっしょ」というプロジェクトをやっています。リノっしょとはそこに住んでいる入居者さんと僕たち管理会社が一緒に棚付けたり、壁に色を塗ったりするプロジェクトです。けどただ壁紙を好きなように選べますよとか、入居者さんが自分の好きな色に塗っていいですよっていうのとは少し違っていて。

僕らのようなお部屋をつくって提供する側では分からない、数年暮らすことで初めて分かるそのお部屋の魅力とか、欠点とか。その建物についてとか街についてとか。一緒に考えて、意見交換しながら体を動かして作業する。そうするとその部屋、建物への愛着が僕たちも住まう方も増して。さらに素敵に暮らすことができて。で、数年後そのお部屋を去る時がくるとき、原状回復のようにリセットするんじゃなくて、魅力あるお部屋のまま次に住まう方へとバトンを渡す。その繰り返しが建物や人を生き生きさせてくれる気がします。

リノベーションは『人と人』、『人と建物』、『人と時間』そして『人とまち』とをつなぐコミュニケーションツールだと思うし、楽しくおもしろく暮らすためにあるものだと思うんです。少なくとも僕にとってはそうなんですよね。

それと住まいって他と比べて遅れているというか進んでいない感じがあると思うんです。それは賃貸マンションの仕組みがそうさせているんじゃないかって。特に原状回復義務ってのが大きな要因だと思うんです。自由に壁に色塗れないし、棚も付けられない。だから「借りもの」なんです。だから愛着もわかない。そして退去したあと、また以前と同じように原状回復する。。
つまり、リセットするわけです。後戻りしてる。当然進まないですよね。時間は常に流れているわけで。どんどん遅れていく。悪循環ですよね。新築は「今」だから輝いているわけですけど。
常に進んでいく、進化していく。賃貸だからこそ出来る時間が経つにつれて魅力が増していく仕組みをつくらなくてはいけないんじゃないかって思っています。

Q:その流れで今回のお部屋になっていくわけですね。
A:はい。今回のお部屋。2008年にデザイニング展で「おとめぶた」という当時九州産業大学芸術学部の女子大学生ユニットがライブペイントしていて。まず、この絵をどう取り扱うかが最大の課題であり面白いところなのかなと。時間が経つにつれて魅力が増す賃貸の仕組みづくりにつながるヒントが生まれるかもしれません。

で、タイトルはですね「BATON」。

Interview:森岡陽介
Photo(※001※004):森岡陽介
Photo(※002.※003):山野雄樹
Photo(その他):北嵜剛司

プロフィール:北嵜剛司(㈱スペースRデザイン リノベーション事業部/ディレクター)
1980年福岡生まれ。2002年九州産業大学芸術学部卒業。家具デザイン、店舗デザイン施工会社を経て2007年吉原住宅(有)入社。2008年㈱スペースRデザインに移籍。2012年取締役就任。築30年超えの賃貸ビルを中心にこれまで60室以上の室内リノベーションや耐震改修、大規模改修のディレクションを行う。続・山王Rプロジェクトリーダー。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


R100pをフォローしましょう
R100プロジェクトはtwitterを利用しています。